■建築研究資料

No.180号(2017(平成29年)3月)

緑のカーテンによる生活環境改善手法に関する研究


加藤真司・桑沢保夫・石井儀光・樋野公宏・橋本剛・永井心平・池田今日子・持田太樹
小木曽裕・島田知幸・楠元美苗・宮里政智・鈴木弘孝・栗原正夫・五十嵐康之

建築研究資料No.180号

国立研究開発法人建築研究所


    
<概要>
 緑のカーテンは、アサガオやツルレイシ(ゴーヤ)などの蔓性の植物をネットに這わせて建物の窓・ベランダ・壁面などを緑で覆うものを指し、緑のカーテンによる日射遮蔽によって夏季における建物屋内の温熱環境改善効果が期待されている。特に、緑のカーテンが繁茂する盛夏期は、冷房の使用によって我が国の電気消費量がピークとなる時期に重なることから、節電対策の一つとして、またヒートアイランド現象の緩和策としても注目されている。しかしながら、緑のカーテンに関する学術的な既往研究は少なく、かつ、緑のカーテンの効果は窓の開閉といった生活スタイルとの関係が深いため、物理的改善効果ばかりでなく、生活スタイルや使用方法、それに利用者の主観的価値感などの多面的な角度から緑のカーテンによる生活環境改善効果を検証する必要があった。このため、独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)の所有する集合住宅を用いた実証実験等により、上記の観点からの緑のカーテンの特性を把握することを本研究は目的とした。
 2011年には、UR都市機構が所有する千葉県柏市豊四季台団地の無入居居室を用いて、緑のカーテンとスダレそれぞれを設置した居室と、何も設置しない居室の屋内温熱環境を、窓を閉め切った状態で測定する実験を実施した。また、窓を開け放った状態での屋内の温熱環境も併せて測定した。これらの実験の結果、緑のカーテンを設置することによって室温は低く抑えられ、しかもその効果はスダレより大きいことが分かった。さらに、窓を開け放った状態でも、緑のカーテンを設置した居室が最も屋内温熱環境改善の効果が大きいことが明らかになった。窓の開放時の方が閉め切った状態よりも体感温度は低くなるため、緑のカーテンを活用する場合には窓を開け放つことが効果的だということが分かった。実際に、浜松市内の緑のカーテン実践者を対象にしたアンケート調査(2011年)では、緑のカーテンを設置することによって窓の開放が促されることが明らかになった。また、全国のUR都市機構の賃貸住宅に居住する緑のカーテン実践者へのアンケート調査(2013年)では、より高齢な者ほど緑のカーテンの設置によって窓をより開放するというはっきりとした傾向が見て取れた。ヒヤリングからは、高齢者は冷え性などのためにエアコンの冷気を嫌うことが多く、このために緑のカーテンによって盛夏期の暑さをしのいでいることが窺えたため、高齢化社会の到来に伴って夏季における屋内温熱環境改善手法としての緑のカーテンの活用が望まれる。
 なお、先に実施したUR都市機構の集合住宅を用いた屋内温熱環境改善効果の検証実験では、壁を緑のカーテンで覆った場合に、夜間において室温の低下が見られた。その低下傾向は、壁を覆わなかった場合に較べると朝方まで続いた。これは緑のカーテンによって壁のコンクリートの蓄熱が抑えられたためと考えられるが、このことから、緑のカーテンによって壁を覆うという方法が、熱帯夜対策の一つとして有効なことが分かる。
 また、実際の生活実態上の緑のカーテンによる節電効果を確認するため、緑のカーテンを利用している浜松市内の世帯へのアンケート調査を実施した。電力会社から各世帯に配布される電気料金票に記載された2010年と2011年の夏季(7月〜8月)の電気使用量を比較するという手法を用いた。
 以上の実験及び調査の結果から、実験によって求めた緑のカーテンの節電効果よりも、アンケート調査によって得られた節電結果の方が大きい傾向が窺えた。その差の原因として、緑のカーテンの設置によって窓辺の景観が向上し、それが涼しげに感じられるという視覚効果が想定された。このため、2012年にUR都市機構が所有する東京都足立区の花畑団地にて、ベランダに緑のカーテンを設置した部屋と何も設置しない部屋を設定した上で、各部屋に設置したセンサーにて測定して求めた体感温度指標SET*と、被験者が感じる屋内の温冷感等との関係を求めるという実験を実施した。この結果、被験者は視覚的に室温をより低く感じ取っていることが明らかになった。
 なお、緑のカーテン実践者へのアンケート調査からは、初めて緑のカーテンを設置し始めるきっかけとしては他者からの勧めが契機になることが多く、また、その動機は屋内の温熱環境改善であることが多い。しかしながら、実際に緑のカーテンを体験することにより、地域コミュニティの醸成や日々の生活のアメニティの向上といった副次的機能に気づく傾向にある実態が確認できた。こうした多様な緑のカーテンの機能が発揮できるような活用方法を指向することが望ましい。
 さらに、緑のカーテンは、条件によっては物理的温熱環境改善効果に匹敵するほどの視覚効果が確認できたので、緑のカーテンの効果的な機能を発揮するための新たな緑のカーテンの形態を考案し、その試験体の製作と試験展示によって、その有効性の確認を行った。試験展示の結果、新たな緑のカーテンの可能性が見いだせる結果が得られたため、更なる今後の検討が望まれるところである。
 以上の一連の研究によって、緑のカーテンの生活動態に応じた特性が把握できた。今後の緑のカーテンの普及の一助になることが期待するものである。


表紙・はしがき・概要・目次 628 KB
序章 646 KB
第一章 1,291 KB
第二章 699 KB
第三章 650 KB
第四章 1,277 KB
第五章 972 KB
第六章 1,243 KB
第七章 485 KB
資料編 713 KB
奥付 238 KB
全文 4,871 KB


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