■建築研究報告

構造物の地震応答問題における不確定  変動量の取扱いに関する研究

山崎  裕

建築研究報告  No.69,  1975  建設省建築研究所


<概要>

  日本のみならず,所謂地震国と呼ばれるような国々では,予測しがたい強震動による災害から人的・物的損失を免れるために各種の研究が行われている。地震に対する構造物の安全性の追求に関する研究もそのひとつの分野である。構造物の耐震性に関する研究は,日本では明治以降絶え間なく進められ,その成果によってどれ程の人的・物的損失を免れたか,はかり知れないものがある。しかしながら,これらの研究にもかかわらず,近年の新潟地震あるいは十勝沖地震などの被害にみられるように,なお不明の点が多く残されていると言わねばならない。本研究は,これらの地震による被害結果を確率論的にとらえることによって合理的に説明できるのではないかという観点から,逆に将来地震力を受けるであろう構造物を設計するに際しても,確率論的に検討すべきであるとし,ここに地震力を受ける構造物の動的応答問題に関する考察を行う。現在では,ランダム振動理論の耐震工学への応用によって,地震現象の不確定さを確率論的アプローチによって合理的に処理することができるようになりつつある。しかし,設計するに当たり,構造物系も決して確定系としては扱えない。構造物を何等かの振動系に置換するに当たって,それらに含まれるパラメータの不確定性を考慮しなければならない理由は,いろいろ考えられる。例えば,施工誤差に起因する場合(質量など),もともとはっきりした値がわからず常識的な数値を用いている場合(減衰定数など),地震応答時の時間経過で変化するが,その変化の法則がはっきりしないことに起因する場合(弾塑性応答時のばね定数,減衰など)などが挙げられよう。これらに起因して,振動系は決して確定的なものとしては扱えない。すなわち,構造物を設計するためには,地震入力のランダム性を考慮して確率論的に扱うと同時に,振動系をも確率的変動要因を含む系として扱う必要が生じてくる。振動問題をこのように確率論的に処理した場合,従来の確定系に対する振動理論から導かれる結果のように,はっきりした確定値を与えないのが特徴であろう。
  地震災害後,壊れた構造物,あるいは壊れなかった構造物に対し,従来通りの確定系に対する振動解析を行うと,なる程壊れるべき運命にあった,あるいは壊れなかったのが道理であったなどという結論が得られることもあるし,また逆に解析結果が現実と矛盾するという場合もある。今,解析の対象とする構造物も同じような特性をもった母集団(その特性はある程度の巾内でばらついている)からとり出されたひとつとしてとらえ,確率論的な考え方で振動問題を処理すると,上記の如き「壊れるか」「壊れないか」という二者択一的な結果ではなく,「壊れる確率はいくらである」,あるいは逆に「壊れない確率はいくらである」といった結果が得られよう。従って上記の事例の場合,現実に構造物が壊れようが壊れまいが,どちらでも説明がつくというような結果が得られる。これは一見いかにも不真面目な答えのようであるが,現実の現象は案外そうしたものかも知れないのである。壊れる確率が1.0と出れば,その集団の中のどの構造物でも必ず壊れることになるが,確率が0と1の間にあれば,壊れる可能性と壊れない可能性は常に両立しているわけで,ただその度合がどちらがどの程度可能性が大きいかということが明らかになるわけである。この場合集団の特性を定義づける諸要因の変動巾の大小が結果に大きな影響を及ぼすのは当然であろう。従って,振動問題にかかわる諸要因の変動巾が実際にどの程度なのかを知ることは,本論文をすすめる上で重要である。何となれば,もしこれらの変動巾が実際に小さいものならば,確率論的な処理をほどこしても,殆ど従来の振動理論による場合と変わらないような結果が得られ,確率論的処理は無意味となるからである。

  本論は1〜3章に分けられ,それぞれ

第1章,不確定変動量からなる構造物の地震応答理論

第2章,構造物の地震応答問題にかかわる不確定変動量の統計的変動性

第3章,不確定変動量からなる構造物の地震応答に関する数値的検討

として述べられる。すなわち,第1章では不確定変動量からなる構造物の地震応答理論を述べる。そして現実に構造物の地震応答問題にかかわる不確定変動量が,どの程度の確率的変動性を有すると考えなければならないかを考察するために,第2章で地震動のスペクトル特性,動的地盤係数,および実在構造物の減衰定数などを対象として,これまでの資料の統計整理を行う。勿論,構造物の地震応答問題にかかわる要因は数多く,ここで扱うものはそのほんのいくつかの例に過ぎない。最後に第3章では,第1章に述べた理論,および1次変動要因の変動係数に関する第2章での推定値を用いて,構造物の応答量の変動性として,現実にどの程度を見込まなければならないか,ということについて検討するとともに,各種の1次変動要因が応答量の変動性に対して,それぞれどの程度の影響をもつか,といったことについて検討を加える。



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