■建築研究報告

零細工業地域の形態について

下河邊  淳

建築研究報告  No.4,  昭和25年5月


<概要>

  都市の形態は,各時代の社會機構によって裏付けられた,特殊の性格を有する。産業革命以後世界の各都市は著しい都市形態の變化をみた。人口の激しい都市への集中は,それ以前の都市を急變させている。東京や大阪等の日本の大都市もこの例にもれるものではない。しかしながら,日本の場合は,アメリカやイギリスの場合と較べて資本主義の發展そのものが非常に後進的跛行的であって,都市の形態もまた,前進資本主義國の都市形態とは異なる特殊な形態を示しているのである。
  日本の工業をみる場合誰でも氣付くことは零細工業が非常に多く存在することである。昭和22年の事業所統計でみると製造工業事業所のうち約80%が從業員5人未滿の工場である。また從業員數からみると全從業員のうち約25%が從業員5人未滿の工場に就業している。從業員100人未滿の工場には全從業員の中の約65%を包含してしまう。この零細工業は日本の後進資本主義社會の生んだ特産物であって,工業の近代化の一方ますます“中小企業”として重要性を増してきたのである。
  これら零細工業の都市内集約立地は,特殊の都市形態を生みだしている。かゝる地域を一應零細工業地域ということにしよう。本文では,地方の中小都市で,零細工業を中心としている都市も零細工業地域として取扱うことにする。
  地域の形態を調査するに先だって,具體的に,どこに零細工業地域がみられるかを指摘する要がある。ところが都市別の工業の統計はあまりみられないし都市内の詳しい工業統計は更に資料不足である。大都市内の工場の分布に就ては今別に資料作製中なので後の機會にゆづることにする。
  唯常識を手傳せて考えれば,東京では,本所,向島,荒川は昔から零細工場が密集しているし,大阪でも零細工業地域の存在は指摘出來る。人口10万以上の都市については昭和22年の事業所統計中製造工業に關する資料でみる。第1圖がそれである。この圖は,各工場の從業員數により,5人未滿,100人未滿,100人以上の3つの規模に別け,各規模に屬する工場の全從業員數の比を都市別にとり,三角圖に示したものである。これでみると,布施市,川口市,豐橋市,(小樽市,コ島市),は他の都市に比して零細工場が中心的であることが示される。人口10万人以下の都市については,事業所統計もなく,通産省の工業統計でも都市別の資料がないので明確なことは判らない。
  唯産業別人口統計から,産業人口中製造工業人口の占める比率を得られる。(第2表參照)
  これで常識的にみると,桐生,岡谷,P戸,足利等々は零細工場を中心とする都市として指摘されよう。
  これら零細工業地域は,前述の如く,日本特有の意味をもつものであり,都市の中でも可成り廣汎な面積をなしている。しかるに今まで,あまりかゝる地域の研究はされず,形態の分析さへ文獻が皆無の状態である。この點を補充する意味で,簡單な調査を試みた。以下この調査にもとづいて零細工業地域の形態について説明しよう。

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