■建築研究報告

不同沈下による上部構造応力の理論解および実用近似解法

大崎  順彦

建築研究報告  No.18,  1956  建設省建築研究所


<概要>
  基礎の不同沈下が上部構造の応力におよぼす影響の問題は、古くからその重要性を認識されながら、その実態の把握とその影響を実設計にとり入れる問題については従来あまり顧みられなかった傾向があるが、最近新たにこの問題を建築物の安全性に関する根本的な盲点として指摘し、実設計にとり入れる方法についても若干の方針を提案した。
  この方面の従来の研究としては年代順にいえば、平版基礎が不同沈下するとき基礎梁に来る剪断力の問題を階差方程式によって解いた井坂富士雄氏の研究、不同沈下により架構に生ずる応力の定点法系の解法を解いた尾崎久助博士の研究、基礎の不同沈下によって上部構造に起こる応力の大きさとその傾向を例解について論じた南和夫博士の研究、基礎が沈下するラーメンの撓角法による解法を示した坂静雄博士、沈下によって上部構造に生ずる応力および層変位を積載荷重の部分的減少によるものと比較し、且つ端部固定の無限連続梁および無限連続単層ラーメンにつき不同沈下による最悪の応力状態を追求した福島皓氏の一連の研究、類似の問題として土木学会誌上に発表せられた支承部が不同沈下する軌条応力に関する諸研究、また最近では圧密層上にある上部構造を剪断変形体と考えその剛性と圧密性状の関係を理論的に取扱った横尾義貫博士・山肩邦男氏の研究などがあり、また外国では不同沈下により上部構造に生ずる応力を図上計算法によって求める方法を示したG.A.Leonardsの論文、不同沈下により大梁が傾斜するためそれに連なる小梁に生ずる応力の問題を取扱ったP.M.Fergusonの研究等が見当る。
  不同沈下を論ずる上に地盤の性状が重要な要素であることは当然のことである。しかるに従来この地盤の性状という点で不明瞭なことが多く資料が不足していたことが、不同沈下による応力の問題の追求を遅らせていた大きい原因だと思われるが、最近はこの方面の研究にも曙光が見出されて来た。
  また上部構造の応力に事実上影響をおよぼす不同沈下は相当長期間にわたるものであるから、上部構造のクリープ性状がこれに関連して来ることは当然である。著しい不同沈下を起こしていることが実測されながら、上部構造に殆ど亀裂の発生が認められなかったというような観測例は、このクリープを考えなければ説明できない。
  従来鉄筋コンクリート構造におけるクリープは構造支持点すなわち基礎が移動せず且つ各部材のクリープ特性に大差がなければ、そのモーメント分布に殆ど影響を与えないことが立証されていて安心感を与えていたが、不同沈下による応力を考慮する上にはクリープが重要な要素となってくることはまた必然であろう。
  この小論では前記坂博士の示された解法を基とし、これにクリープの理論を組合わせた上、各種の地盤性状に応ずる境界条件を与えてまづ架構応力の問題を解く一般的な理論式を導くことを試み簡単な例題の解について鉛直荷重による不同沈下応力の性質を検討した。ついで、これら理論式の解をうるため一般には多元連立方程式を解く必要があり実際に利用する場合困難がある点にかんがみ、固定モーメント法系の実用近似解法を示しておいた。なおクリープの影響を実用的にとり入れる方式については武藤清博士の見解、岡田清氏の研究、筆者の報告等がある。

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