季節と住まい/夏をむねとすべし?

 吉田兼好が「徒然草」第五十五段の中で「家の造りようは夏をむねとすべし」と述べていることはご存じの方も多いことでしょう。実は同じ段で「天井の高き(部屋)は冬寒く」と冬のことにも触れているのですが、古来日本の家は冬よりも夏を中心に考えられてきたようです。
 しかしながら技術の進歩とともに、夏だけではなく冬も、そして他の季節も考えた家造りが可能になり、求められていると言うことができます。
 日本人の疾病による死者数と季節の関係について研究した故籾山政子博士によると、明治、大正時代には多くの疾病死亡が夏季に多発し「夏季集中型」を呈していたのに対し、昭和に入ると多くの疾病死亡が「冬季集中」へと驚くべき変化をした、とのことです(『疾病と地域・季節』大明堂1971年)。薬物療法をはじめとする治療法の充実、上下水道や冷蔵庫の普及による衛生状態の改善などが、そうした変化をもたらしたと言うことができます。
 兼好が暮らした鎌倉時代の京都の様子は古典を通じて知り得るのみですが、疾病死亡が夏季に集中していた時代では、夏を生き抜くことこそが、少しでも長生きするための重要事だったと考えられます。そのため、食品や飲み水を置く冷所を確保し、人間にとっても暑さで体力を消耗しないような「家の造りよう」が大切であったと理解することができます。
 一方、夏季集中が消失した現代では「冬はいかようにも住める」ということではなく、冬暖かい家を造る上で大切な技術としての、断熱と暖房を活用することも大切になっています。最近は燃焼排ガスで室内の空気を汚染することのないエアコン、FF暖房機、各種の温水暖房などの暖房設備が普及しました。しかも壁、床、天井及び窓の断熱性を高め、少ないエネルギーで暖かく、結露の被害も少ない、健康的な住まいを造ることが容易になってきています。
 季節を問わず住み心地の良い家、そして省エネルギーで光熱費の負担が軽く、さらに二酸化炭素排出量の少ない家。そんな家がこれからの日本の家ではないかと考え、建築研究所では研究に取組んでいます。
(建築研究所 環境研究グループ 澤地孝男)

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